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ムスメミユキ
 
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  • こいて候

  • 2009年05月03日日曜日 | カテゴリー:写真等
     

    字は田中、
    名は五郎といった。
    その男がいま、

    「ぷぅ〜〜〜」

    と、屁をこいた。
    (長い)
    五郎は思った。
    (そして、くさい。)
    かがずともわかる、五郎は思った。
    (これが臭くなくて何が臭いというのか)
    そして実際に、まずその屁の主、五郎の鼻腔内に、その異臭が入る。
    (思えば久しく屁をしておらぬ)
    だからこんなにも臭いのか。五郎はまるで他人事のように自らの屁の匂いを所見した。それにしても、臭う。
    五郎は顔を赤らめ、その頬をぽんぽん、とたたいた。
    六畳一間の部屋であった。
    その部屋は、ふすまで密閉され、五郎とその家臣三人が顔を向かい合わせて胡坐をかいていた。
    まもなくその三人に五郎の匂いが巡ったことは、とたんにゆがんだ三人の顔を見ればわかった。
    五郎はそんな三人を、あごひげをもてあそびながら見ている。
    「すまぬ、わしがした屁じゃ、ふすまを開けい」
    とは言わない。こんなにも臭い屁をしたことで、百二十万石を誇るこのぴぽ藩の領主たる自分の誇りが傷つくと思っている。そして五郎の体内に脈打つ貴族の血が、このにおいに狼狽していた。
    五郎と共にこのピポ藩を成熟させてきた家臣たちは、その袴を震える手で握りしめにおいに耐え、脂汗に滲む眉間には、青い血管が浮き出た。
    ある家臣は、「土佐藩の坂本竜馬と申すもの」とまで言うと、「うぐ、」とその口をつぐみ、
    ある家臣は「ぷぽ湾に建設中の砲台があははははは」と気を狂わせた。
    「くそうございますね」と言うどころか、ふすまを開けに立つ者さえいない。
    その主を十分に周知させるに足るほど、その屁は長く、そして高い音を出した。
    ここで屁に触れることは、藩の長である五郎の気分を濁すのではないか。
    家臣の皆が思った。
    そしてそのことは、誰よりも五郎が知見していた。
    「わたしが」と一人の家臣が言った。
    「わたしがやりました」ということであろう。
    しかし彼はその続きを言うことができなかった。なんとなく心細疎そうな五郎の目を見てしまったからである。今ここで自分が放屁の罪をかぶったところで、何の解決になろう?
    「私が」
    と入った。自然、その続きを考えねばならなかった。
    「私が。」
    「後藤象二郎でございます。」
    ほかの二人は、小さくため息をついた。
    (思えば妙なものだ)五郎は思う。
    (日本史上に昂然峻烈たる風采を誇るぴぽ藩の領主たる俺や、そして俺の最も信頼する家臣たちが、たかが屁のことにバツが悪くなっておるとはのう)
    何が倒幕であろう?屁のような事も解決できぬではないか。
    五郎は自身を嘲笑したい気分になりながら、詩を考えた。

      大公傾倒にたる忠臣
      我が赤面をただただ無心に尽くすのみ
      武王昂然にたる屁の匂いに
      額脂咳苦してただ耐ふるのみ

    中国古代史に残る名君、武王でさえ気を違えるような匂いに、ただ耐える強靭な精神力をもった自分の忠臣は、自分に「くそうございます」とも言えぬ、という意味であろう。
    五郎はしりを持ち上げた。わかる。また、来る。

    ぷぅぅ〜。

    ふすまの外で、鶯が鳴いた。

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