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ムスメミユキ
 
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  • 風のランドセル

  • 2011年02月23日水曜日 | カテゴリー:ムスメミユキ


    「いや、これはありがたい。」
    十津川警部から缶コーヒーを受け取ると、明智はまずそれを両手で弄んだ。
    じんじんとあたたかい。
    「しかし、あたしはバカげていると思いますがね。」
    十津川警部は缶コーヒーに口をつけながら言った。
    「いや、あいつなら、きっとやります。」
    明智は缶コーヒーを弄び続けながら、上を見上げた。
    東京の明るい夜空に、なおも明るくそびえ立つ東京タワー。
    まるでそこにだけ複雑怪奇な紋様に空間が切り抜かれ、
    異世界への情景を垣間見ているかのような、異様な存在感をはなっている。
    そのふもとの桜田通りの脇で、二人はそろって上を見上げていた。
    真下ではなくこの場所を選んだのには理由があった。ここのほうが、全体を見渡せるからだった。
    「明智さんにそこまで言わせるとは、一体全体たいしたもんだ、その―――伊達直人ってやつは。」
    十津川警部はポケットから紙切れを出し、器用にそれを片手で広げた。
    今日の朝早く、虎のような、どこか不気味な紋章が刻まれた一通の封筒に入って、それはへそ曲がり署に届いた。
    それはひとつの予告文だった。

    「本日21時、東京タワーにランドセルをプレゼントしよう 伊達直人」

    明智はふと地上に目を戻す。
    桜田通りを行きかう人々は、あるものはうつむき、あるものは携帯をいじりながら、あるものは何かに追われるように、
    ただ無心に各々の道を急ぐ。誰もその頭上にそびえる東京タワーに一瞥もやらない。
    (東京は人を狂わせる)
    明智は缶コーヒーを開け、それをひとくち口に含んだ。甘い。
    秋田から出てきた明智にとって、東京タワーはまさに夢の象徴、華の都東京への憧れの対象であったし、いまでもその気持ちは変わらないと思っている。
    東京タワーを見かけるたびに、欠かさず携帯で写真を撮っているぐらいである。
    「もう九時ですよ。」
    十津川警部が寒さに肩をすくめながら言った。時計を見ると、なるほど九時まであと数十秒といったところだ。
    周りを見渡すと、時折通るタクシー、無心に歩く人々、さびしい夜の東京がたたずむのみで、変わったところは見当たらない。
    「だいたい、どうしてここなんです?ランドセルを届けるってなら、普通東京タワーの入り口とかじゃありませんか。」
    十津川警部はコーヒーの缶を握りつぶしながら言った。
    「まあ、いまさら言うことじゃあないですがね。」
    十津川警部の手に取るようにわかる不機嫌さが、明智には妙におかしく思えた。
    「なんとなく…勘ですよ。」
    明智は笑みを浮かべながら答えたその瞬間であった。
    おどろおどろしい獣のうめき声のような大音響が二人を包んだ。
    「風だ。」
    明智は周囲を何度も、しかしゆっくりと見渡した。
    彼のキャラ上このような異常事態でも冷静を装っていなければならなかったが、実のところ彼は逃げたしたいほどに怯えていた。
    明るい東京の空に唯一黒い影を落とす芝公園の木々が、けたたましくざわつきはじめたかと思うと、
    その光景は無数に折り重なる悪魔が二人を囲んであざ笑っているかのように思え、明智は隠してはいたものの半泣きであった。
    明智が我慢できず「うわあん。」と叫ぼうとしたその瞬間、明智と十津川警部の二人を台風のような風が襲った。
    十津川警部はあわてて近くの街灯をつかんだほどであった。
    ファーストフードの袋や、雑誌の切れ端のような紙が夜空を滑るように舞い上がり、右往左往するように夜の空へ消えていく。
    道路を転がる空き缶の音とともに風は収まり、先程の喧騒が夢であるかのようにまた静けさが二人を迎えた。
    「なんだったってんだ。」
    十津川警部は風で乱れたコートを整えながら言った。
    「警部、望遠鏡を。」
    明智は胸に妙なざわめきをかんじ、東京タワーに望遠鏡を向けた。
    「今の風でランドセルが飛ばされでもしましたか?」
    十津川警部が茶化すように言うと、明智は双眼鏡を下ろし、十津川警部に笑みを見せた。
    「どうやらそのようだ。」
    十津川警部は明智から双眼鏡を奪うようにして受け取り、あわてて東京タワーを確認した。
    「そんなバカな!」
    双眼鏡の向こうに見えたの光景は、長年多くの事件を見てきた十津川警部であっても、理解しようのない光景であった。
    東京タワーの第一展望台の外側に、ランドセルがかけてあったのだ。しかも、ひとつではない、ガラスの一区切りにひとつずつ、
    ざっとみて百個以上はくだらない。こちらから見て裏側にもあるとしたら、その倍だ。
    「あんなものは」
    十津川警部は顔を真っ赤にして明智に向かった。
    「ええ、わたしたちは何度も確認しました、あすこに、あんなものはなかった。」
    明智は十津川警部から双眼鏡をもう一度受け取ろうとしたが、十津川警部が放そうとしなかったので、
    十津川警部の手をペンッとして双眼鏡を奪うと、もう一度それを確認した。
    ランドセルは間違いなく外側にかけられ、第一展望台にいる人々の様子を見ると、実際にそこにはランドセルがあるようだった。
    一体こんなことができるものなのだろうか?明智にはその事実を受け入れることができなかった。
    数百メートルの高さにある東京タワー第一展望台の外側に、百個以上のランドセルを、一瞬で?
    「まったく見事だな…、伊達直人。」
    ランドセルの値札が、まるで二人をこの謎の迷宮に誘う貴婦人のハンケチのように、風に揺れていた。

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